ウイスキー「ジャックダニエル」の名称が人の名前(創業者)から来ているってのは説明する必要もないかと思う。前後共にありがちであり、さらにジャックはジョンの短縮形(愛称)であるという辺りを考えると、まぁ日本で言うと「マサ斎藤」みたいなもんなんである。
と、イキナリ適当な感じで攻めてみたりするわけだけれども、でも実際、ジャックダニエルみたいな酒ってそうやって適当な感じで接する(すべき)なんじゃないかと思ったりするわけですよ。飲む側に緊張を強いないというか、ね。自分も以前はストロングスタイルな開高健アングルで酒に接しなければと気負っていた部分あったんですが、オッサンにモロ片足を突っ込んだ年齢になりますと身体に頼るということができなくなって来まして、ある意味どうでもよくなるというか、だったらショーマンシップ込みの野坂昭如アングルで接する方向もアリなんじゃないかと思うようになってくるんですな。矢吹丈を目指していたのに丹下段平になっちゃったみたいなビターさも心地良くというか。そういうスタンスを固めつつある中で適当酒の代名詞的な(失礼)ジャックダニエルのバー出来たと聞けば当然の如く行かなきゃならんわけである。
んなわけで、今回は銀座に期間限定でオープンした「ジャックダニエル リンチバーグ バレスハウス」(名前長えよ)のレポが主になっておりますです、はい。
早く行きたいとは思っていたが、個人的由無し事やらもあり、ようやく時間が出来たのは期間終了一週間前なのであった。んなわけで、仕事終わりにとっととそのジャックダニエルバーがあるという銀座一丁目交差点へ向かう。自分的には文房具屋の伊東屋、帽子のトラヤ、餃子の天龍なんかのマーカーが脳内マップに立っている辺りだ。事前に公式サイトで見ると中央通り沿いにあるっつーことなので、まぁ迷うことはあんめいと銀座四丁目交差点から通り沿いに進んでいくと、トラヤの先の方にズドーンと「JACK DANIE’S LYNCHBURG BARREL HOUSE」(やっぱ長い)と吉野家か餃子の王将並に分かりやすい看板建築の建物があった。うーん、正直もうちょい地味というかアングラな感じを想像してた。でも、考えてみたら宣伝でやってんだから当たり前か。
それよりもなによりも、店の前結構並んでいるんである。CUE氏との待ち合わせ時間にはちょい早いのでその辺をウロウロしようかと思っていたが、列を仕切る店のお兄さんに「並んだ方がイイの?」と聞くと「そうっすね!」と軽やかに返して来たので、とりあえず大人しく並んでしまうことにする。期間限定とはいえ、銀座で列ができるバーってのは妙なもんである。
並んでいる客層を見てみると、会社オワリのグループにしろ、カップルにしろ、何かヤッピーっぽいのが土地柄と言うべきか。あんまブラックラベルなんかとは縁が無さそうだな。多分、帰ってからFacebookとかに書き込んじゃって「いいね!」とか付けられちゃうんだろうね。死ね。
自分の前に並ぶ女性はどうも相方の男性が仕事で来られなくなっちゃったらしく、やや憮然としつつも悲しげに「また来ます…」と店のお兄さんに告げ、慰められつつ去っていくという、何かむしろ来られなくなった男性に同情したくなるようなイベントをクリアすると列の先頭に、ということになった。
そこでお兄さんに聞くと、どうもそろそろ終了なので(2013年3月22日まで)一度来たリピーターさんが多いんですよねとのこと。なるほど、もう一度来たいと思わせるような内容が有るのか無いのか。楽しみである。ついでにメニューが置かれていたので見てみると、ジャックダニエルづくしの酒方面はともかく、食い物もそれなりにちゃんとしたものが揃っている。単なる宣伝ではなくキチンとやっているのね。感心している自分に店のお兄さんが「ジャックダニエルの匂いがしっかり付いたビーフジャーキーとししゃもがおすすめです!」と教えてくれてるトコロにCUE氏が到着。
メンツが揃ったということでご入店準備が整い(メンツが揃わないと入店できない)、中の店員さんが場所を確保後にご入店ということになった。なお、みなさんあくまで話のタネにということなのか、余り長居はしないようなので回転は早かったりする。
当然と言えば当然だが、店内はラベルに合わせた黒で統一。片方はカウンターで、もう片方はウイスキー樽を使ったテーブル席。始めの頃はカウンターの方に椅子が置かれていたようだが、混むようになってからはオールスタンディングになっている。
自分達はカウンターの奥の方、他の客層とはややズレたオッサンが一人チリビーンズを食いながら静かに飲む隣に通される。どう見ても話のタネに来ているという感じじゃないので、普段ジャックダニエルを愛飲している人なんだろうと思うが、本来の客層と店の雰囲気とズレれてしまう辺りは宣伝用ってことで仕方ない部分ではあるだろう。CUE氏がなんか客層がハーパー(I.W. Harper)じゃねと。確かに。
駆けつけの酒は正しく適当な感じでジンジャーやらコーラ割りなんかを頼み、食い物はオススメのビーフジャーキーとししゃもをとりあえず注文ってことで様子を見る。ここで店内をもう一度見てみるとジャックダニエルの歴史がキッチリと掲示されている。
そして自分達の裏には内側が焼かれた(リチャー)樽が確認できるように半分になって置かれている。それにしてもとCUE氏にえらく力入れてる感じだねえ、というと。今回輸入元が(アーリータイムズと共に)サントリーからアサヒに移っての宣伝だから、売上落とすと酒屋として沽券に関わるってことで気合が入っているんだろうと言う。
なるほど、そう考えると恐らくこの店内に居る人達ってのはアサヒが新たに獲得したい顧客層ってことなんだろうな。正直、いままでのサントリーの売り方ってのは相変わらずの広告絨毯爆撃方式で、ジャックダニエルのイメージが「適当」を越えて「雑」な辺りに落ち着いてしまった感がある。地方の国道沿いのディスカウントスーパーとか酒屋に(ブラックラベルが)ゴチャッと積まれてるみたいな。アサヒに移ってこの辺が解消というか、ちったあ敬意のある売り方に変わるんだったら、ターゲットの多少の変化も結構なことだと言わざるを得ないっつーか。逆にアサヒからはジム・ビームがサントリーに移って、なんかディカプリオのCMやってるそうだけど見たこと無いな。まぁサントリーって感じのCMなんだろう。
てな内にやってきたビーフジャーキー、ししゃも共にしっかりと香りが付いていてかなりイイ。特にビーフジャーキーの方は市販してくんないかなという素晴らしさ。アサヒフーズでどうにかならんもんか。
ビーフジャーキーとししゃもを交互に齧りながら向かいの壁を見ると、モニターがありジャックダニエル蒸溜所の様子といった紹介映像が流れているが、そこで仕事する男たちが見事なくらいにヒゲ・デブ・Tシャツ・ジーパン(もしくはオーバーオール)で人種に関係なく統一されており嬉しくなってしまう(一つか二つ抜けている場合も)。アメリカ南部男の見本市といった感じなのだ。本来の「ジャックダニエルな」方々ってのはこういった辺りなんだろうね。
ここでもう一回メニューをよく見てみると、食い物メニューってのは蒸溜所があるテネシーのリンチバーグ周辺で親しまれている料理を中心にジャックダニエルでアレンジって内容らしい。アメリカ南部料理ってピンポイントなバーってのも無いっちゃー無いね。でも、ししゃもあるじゃん。
というわけで、次はそのテネシー方面料理ってのを注文。スパイシーチキンウィングにオリジナル・チリビーンズにブルド・ポークのプーティン。プーティンって確かロシアの偉い人じゃなくて、フランス系のカナダ料理のはずだが、フランス領ルイジアナの名残かナンカだろうか。まぁししゃもがあるくらいだから適当もんなのかもしれんが。
スパイシーチキンウィングはいわゆる「バッファローウィング」ってやつですかね。スーパーボール見ながら食うという。ホットソース絡めだから辛いんだろうなと思って口に入れてみたら思ってたよりも辛かった。でも美味い。
オリジナル・チリビーンズもきっちりしたお味。これもアサヒフーズがレトルトで売れよ。
プーティンも見た目通りの味でございます。ジャックダニエルに合うってことではかなりの選抜メンツじゃないかと。いやー期間限定はホントもったいないね。
とか言いながら横を見ると、後から来たカップルがテイスティングなんかをしている。ここ、ブラックラベルとジェントルマンジャック、シングルバレルの三種をテイスティングする「ジャック ファミリー テイスティング チャレンジ」ってメニューがあり、三種正解すると認定証をプレゼントってのがあるんである。新たな客層へのアピールってことを考えると上手い企画だと思う。こういうの好きな辺りだろうしな。実際、イベントノリで来ているような人は大概頼んでいるようだ。死ね。
そんなカップルを生暖かく見守りながら、自分達はシメとしてトワイスアップを頼むことにする。自分の方はそういや飲んだことがなかったなと、シングルモルト。
スグにやってきたトワイスアップを切腹五郎氏がユカイな状態でジャックダニエルを一本開けた話をCUE氏から聞きながら味わってみると、耳に入ってきてる話と共にナンカどうも自分の中のジャックダニエル観とどうも違って違和感があるのである。何か心地いい適当感が無くしっかりし過ぎちゃってるんだよね。もちろん美味しいんですが。なお、このシングルモルト、ジャックダニエルのマスターディスティラーのジェフ・アーネット氏(髭面)がこのバーの為に選んだ樽のものとのこと。
といったところでオアイソとなるが、その前に店内にあるジャック・ダニエル人形にご挨拶。この人形マスコット的なもんでこの大きさ(155cmくらい)なのかと思ったら実寸大なんだそう。向こうの人にしてはエラクちっちゃい人だったんである。なんか短気過ぎて開かない金庫蹴っ飛ばして死んだなんて伝説もあるようで、スコセッシ映画のジョー・ペシみたいな感じだったんかな。何にせよ変わった人だったようだ。妙な同志感を感じるよね。
というわけでまとめだ。正直期待していたよりもカナリ良かったので期間限定はもったいないってのが何度も言いたいトコロだ。宣伝って意味では成功なんでしょうがね。出来れば、地味な場所で小さめでいいので常設店にしてもらえんでしょうかねえ。ジャックダニエルっていう酒の性格から言っても、Facebookで「いいね!」押して貰いたい人とか食べログで「行って来ました!」とか書いちゃう人とかが来なくなってからが店の真価が出てくるような気がするので、磨かれる前の無くなっちまうてのはホント惜しいところなんだけど、まぁ期間限定のキラキラさもそれなりに楽しめましたのでイイかなという、どっちつかずの適当な感じでシメ。
まぁジャックダニエルなんだからさ。
写真協力:CUE氏
ジャック ダニエル リンチバーグ バレルハウス
住所:東京都中央区銀座2-6-3
電話:0120-035-573
営業時間:
平日 17:00~22.00
土曜 13:00~22:00
日曜 13:00~21:00
期間:2013年1月24日~2013年3月22日
※公式ページ
以下は何時ものようなオマケ。質的にも内容的にも、こっちのほうが本編と言っていい感じなんだけど。
ジャックダニエルバーで飲みつつ、スタンディングだしそれほど長居もできんってことで、次どうすっかと言うとCUE氏が銀座六丁目方面にあるバーに行かんかという。なんでも非常にイイのだとのことなので、当然ながらウイと答え、ジャックダニエル氏に別れを告げた後はそっちへ向かうことになったのである。今回はあくまでジャックダニエルバーのレポであるので、絡めてえのアラマシだけをザクっと触れていくことになるんだが、何れ店の詳細はキチンとどうにかする機会があるんじゃないでしょか。
銀座六丁目辺りで酒というと、文学方面やらの老舗バーやら高級クラブがかつてあった店も含め幾つか名前が上がってくるが、どちらかと言えば、頭が流線型だったり腰が異様に高かったりするサイボーグでレプリカントな女性達が自分の金で来ているわけではないヤヤコシイオッサンを接客する場所といったイメージが強く、正直何か敷居が高くあんまり足が向くようなトコロじゃないわけだよね。が、CUE氏に連れられるままに入ったそのバーはそういう中で何か真空地帯のようにキリリとした居心地の良さがある店なのであった。
野坂昭如アングルでもなく開高健アングルでもない空気感の中で、そのギリギリの辺りを攻めるプロの技を堪能し、前のジャックダニエルバーとの対比と共に、全体の流れとして非常にメリハリの効いたものとなり、何やら酒に貴賎無しといった辺りをしっかりと押さえた一日になったのであった。
と、格調高く終わりたいところだったんだが、花粉症のため帰りの電車じゃくしゃみ鼻水にマミれつつ結構ヘロヘロだったりして。まぁ現実はこんなもんなんすよ。タイトルどおりで。