結構前にゲーム情報番組(嘘)の『杉田智和のアニゲラ!ディドゥーーン』に羽海野チカ先生がゲスト出演していて、「最近、面白いと思った漫画は?」という問いに本作品を上げていて、よし!本屋で見かけたら買ってみようと決意したのはいいんですが~本屋では全く見かけず。掲載紙シリウス?聞いたこと無いなと、すっかり忘れちゃってたんですが、最近になって片田舎のショッピングモールの本屋で並んでいるのを偶然発見。そういえばと羽海野チカ先生が薦めていたのを思い出し、とりあえず1巻と2巻を購入。といってもすぐには読まず(読むぜ!って買ったわけじゃないからね)、数日後になんとなく読み始め~いやコレ面白いじゃん!その日のうちに都内のデカイ本屋に行き、残りの巻を購入。が、だんだんと読み進める行ったら、コレ面白いけどあんまり知られていないものしょうがねぇかなぁ~と、私の中のゴーストが囁いてくるような「問題作」だったわけです。
では、第1話を紹介する形でストーリーを。
― リップ・バンバン・ウィンクル!と唱えてから唇に塗れば、イメージしたもの何にでも変身できる謎のリップクリームで好き勝手なことをした魔女ザイアーは、自業自得な報いを受け身体が段々と石になっていく呪いをひっかぶり左手が石に。使い魔の猫・レンチが、呪いを解くには謎のリップクリームを心の清らかな子供に託して「良い事」に使ってもらうしかないと彼女を諭していると、そこに通りかかったのは「普通」の小学生・目保(めたも)マコ。無理くり知り合いになって会話していると、上手い具合にマコが片思い中のクラスメイト・清輪くんが溺れてアップアップ。レンチが、これは呪いを解くいいチャンスだとザイアーを促し、リップをマコに託させる。マコは持ち前の柔らか脳でイメージ通りのマブチモーター人間に変身して清輪くん救助に!が、すでに自分で助かっていた清輪くんに向かって暴走激突し、哀れ清輪くんは救急車で病院行き。こうして「良い事」に失敗したマコだったが、何故か呪いは引き続きザイアーがひっかぶり、今度は顔が石に。結局、ザイアーが元通りになるまでマコはリップを「良い事」に使うのを引き受けることになるのであった。 ―
ごめん、字面にすると俺の気が狂ったみたいだけど、ホントこんな内容なんです。要約できないっつーの。だんだんと「良い事」はどうでもよくなっていく傾向があるものの、まぁ毎回こんな展開。カオスな状況に対処すべく変身するけど、状況はさらに悪化。最後にマコが変身したものに合わせて、ザイアーが呪いをひっかぶり、跳び箱の踏み切り板になったり、公園によくあるベンチになったり、左手がツチノコになったりしてオワリと。
当然というか、こんなストーリーに負けずキャラも濃い濃い。マコは過剰にポディティブで、後先考えずに行動する暴走機関車。ザイアーは高齢処女で男になる呪いでチ○コ見れたと喜んで2ちゃんねるに書き込んだりするニートな自己中。マコの片思い相手の清輪くんは虚弱なのにムチムチの身体を矢鱈と露出するUMAマニア。敵かと思ったら、仲間だったバカ男萌えの中華娘・李千髪(リー・チーパツ)。漫研出身の重度のオタクで娘とレアDVDを交換しようとするマコパパ。若干色ボケ気味で妙な行動力から出会い系に走ったりするマコママ。極度の気弱で、頭に三本傷があるブッチャー似のマコの担任・阿河先生。と、こんな人ばっかり。まともなのは、こんな周囲の環境に悩むマコ兄と無職の主人のためにコンビニで働く使い魔のレンチぐらいだったり。レンチ、猫なのに苦労人。
ストーリー・キャラだけでも結構問題なような気がするのに、さらに大問題なのはオゲレツでキケンなネタの数々。UMAマニアの清輪くんは河童(マコが変身したもの)の気を引こうと尻にきゅうり挟んだりするし(この尻パターン多い)、いじめっ子の池田おすかると下っ端の安藤は高校生をおっぱい奴隷にしようとするし、勘違いからマコパパ・ママはマコ兄に性のエキスパート教育をしようとするし、機動戦士なんちゃらで聞いたことあるような名前の敵キャラはロリコンで子供に責められる妄想をしてるわで、これいいのかと思っちゃったり。でも、オゲレツなのに妙なサッパリ感があるのは女性作家ゆえかな。
そして、どういうわけかレトロなニオイのするネタも多数。阿河先生がブッチャーってのもそうだけど、他のプロレスネタもハンセンだったり、猪木だったり。漫画・アニメネタもガンダムファースト、コブラ(寺沢武一)とオッサンのハートをガッチリ。仲本工事風体操おじさんに変身するドリフネタもあって、カバー裏のマコちゃん変身大百科に「体操引退後はおふくろの味を出す居酒屋を経営している」っていうのに、仲本工事の店によく行ってた自分はのけぞっちゃいましたよ。
こんな感じなんだけど、「問題作」だっていう辺りは十二分に分かったよね。個人的にっていうか、この作品を楽しめる人には、その「問題作」的方向性が一番面白いんだけど。
作者は尾玉なみえは集英社の赤塚賞準入選をとって、ジャンプデビューするものの打ち切り。流れ流れてシリウスへという感じでこの作品の連載が開始。尾玉個人の連載最長記録を更新中らしいです。ジャンプ連載当時の作品を知る人に聞いたら「内容的には(マコちゃんのリップクリーム)まんまですよ」とのことで、そりゃ~努力・友情・勝利のジャンプじゃキビしいだろうな。現在は里帰りするような形で季刊誌「ジャンプSQ.19」に『モテ虫王者カブトキング』を連載中しているようだけど、この雑誌も見たこと無いな…。作品の面白さは知ってもらいたいけど、メジャーに受け入れられるようになったら、多分尾玉なみえ作品としてのキモは失われているんだろうしなぁ。難しいところだ。
んなわけで、この『マコちゃんのリップクリーム』はオススメの作品ではあるけれども、使用・用法には結構ご注意の作品なので、「羽海野チカ先生が薦めていた」という魔法の言葉を鵜呑みにして、うっかり森ガールなんかに薦めたりしないよう気をつけようね。多分森から王蟲が押し寄せてくるよ。
※引用した画像は比較的穏便なものです。